
月次決算の数字をまとめるだけでも手一杯なのに、社長や上司から「あれ、この費用、先月からなんでこんなに増えてるんだ?」なんて、急な質問が飛んできて、ヒヤッとした経験はありませんか?
「ええっと…すぐに確認します!」
そう答えたものの、心の中では冷や汗だらだら。日々の伝票処理や支払業務に追われ、正直なところ、毎月の増減分析までじっくり時間をかけられていない…なんて方も、少なくないのではないでしょうか 。
経理担当者が一人で何役もこなすのが当たり前 。ルーティン業務をこなすだけで精一杯ですよね。私自身、監査の現場で、限られたリソースの中で奮闘されている経理担当者の皆さんを数多く見てきました 。
でも、もし、この面倒な増減分析を一瞬で終わらせ、さらにエラーの可能性まで教えてくれる「優秀な相棒」がいたら、どうでしょう?
今日は、生成AIを活用して、あなたの月次決算業務を劇的に効率化し、経営層からの質問にも自信を持って答えられるようになる「増減分析プロンプト」をご紹介します。
なぜ今、増減分析が「最強の武器」になるのか?

「増減分析なんて、毎月やってる形式的な作業でしょ?」
そう思うかもしれません。しかし、実はこの増減分析こそ、大きな会計エラーや不正を未然に防ぐ、最も簡単で、最も優れた手続きの一つなんです。これは、監査法人が上場企業の監査で必ず実施する、いわば「プロのお墨付き」の手法でもあります 。
こまめに数字の変動をチェックすることは、会社の「健康診断」のようなもの。早期に異常を発見できれば、期末の決算で慌てることも、後から大きな手戻りが発生することもありません。
とはいえ、忙しい中で、すべての勘定科目を精査するのは現実的ではないですよね 。そこで、生成AIの出番です。
準備はたったこれだけ!AIに分析を任せよう

AIに分析をお願いするために必要なものは、普段皆さんが使っている会計データだけです。
- 基本セット: 比較したい2期間の試算表(例えば、今期四半期と前期四半期)、対象期間の仕訳帳
- あれば便利: 総勘定元帳、科目明細
これらをPDFに変換してください。そして生成AIにドラッグ&ドロップしてください。
増減分析をするプロンプト
そして、今回のプロンプトこちらです!
“★★★★”を変更して、あなたの分析したいものに合わせてください。
#前提条件
- タイトル:増減分析実施プロンプト
- 依頼者条件:増減分析を必要とする企業または組織の経理・財務部門のスタッフ。
- 制作者条件:会計学とデータ分析に精通した5年以上の経験を持つベテラン会計士。
- 目的と目標:会計データの増減を詳細に分析し、企業の財務状態や業績の変動要因を明確にすること。
#実行指示
添付ファイルの試算表と仕訳帳を用いて、{比較対象期間}における増減分析を詳細に実施してください。
各勘定科目の変動要因を精緻に評価し、その結果を透明性のある形で報告してください。
貸借対照表の期首は{BS期首}とし、期末は{BS期末}とする。
損益計算書の期間は{PL前期期間}と{PL今期期間}とする。
必要に応じて、貸借対照表や損益計算書の関連項目も参照し、財務諸表全体の整合性を確認しながら分析を進めてください。
{出力フォーマット}を参考にして出力してください。
比較対象期間 ="
★★★★
"
BS期首 ="
★★★★
"
BS期末 ="
★★★★
"
PL前期期間 ="
★★★★
"
PL今期期間 ="
★★★★
"
参考フォーマット ="
比較対象期間:{比較対象期間}
勘定科目、期首残高、期末残高、増減金額、増減率、増減した理由
"
#補足:
指示の再確認は不要です。
結論やまとめは不要です。
自己評価は不要です。
試算表の形を参考にスプレッドシートに出力できるようにしてください
さあ、AIがあなたの代わりに膨大なデータを分析してくれます。まるで、「いつでも隣にいてくれる監査法人出身の先輩」のように、客観的な視点で数字の異常値を洗い出してくれますよ 。
今回は練習用にX2年度の試算表・仕訳帳、X3年度の試算表・仕訳帳を作成しました!
ぜひこちらを活用して、試しに動かしてみましょう!
比較対象期間 =”X3年度”、BS期首 =”X2年度”、BS期末 =”X3年度”、PL前期期間 =”X2年度”、PL今期期間 =”X3年度”と設定すると良いでしょう。
AIの分析結果、どう見る?プロの視点を伝授します

AIは分析結果をリストアップしてくれますが、それをどう解釈するかが重要です。チェックするポイントは2つ。
- 金額の大きさ(量的重要性): インパクトの大きい変動は当然、最優先でチェックします。
- 内容の違和感(質的重要性): 金額は小さくても「ん?この勘定科目がこのタイミングで動くのはおかしいぞ」と感じる、性質的な変化に注目します。
この2つの視点を持つだけで、分析の精度が格段に上がります。
【ケーススタディ】AIが見抜く!あなたの会社にも潜む会計エラーの兆候
AIによる増減分析は、具体的にどんなエラーを見つけてくれるのでしょうか?ここでは、監査の現場でも「あるある!」な典型的なエラーパターンを、ケーススタディ形式でご紹介します 。あなたの会社でも起こっていないか、チェックしてみてくださいね。
観測された異常パターン | 考えられる事業上の理由 | 潜んでいる会計エラーの可能性 |
---|---|---|
売上増なのに売掛金が減少 | 回収サイトの短縮、現金販売の増加 | 売上計上漏れ、入金処理の誤り、架空売上 |
費用が毎月一定のはずが、ある月だけ突出 | 臨時の追加支払い、年間契約の一括払い | 二重計上、月ずれ計上 |
粗利率が急に改善/悪化 | 販売価格の改定、仕入価格の変動 | 売上計上期間のズレ、原価計上漏れ/過大計上 |
未払費用が減らずに増加し続ける | 業容拡大による支払いの増加 | 前期計上分の洗い替え(反対仕訳)忘れ |
関連性の高い費用の一方だけが増加(例:購入増だが支払手数料が不変) | 取引条件の変更 | 関連費用の計上漏れ |
ケーススタディ1:忘れられた反対仕訳(洗い替え処理忘れなど)
- 異常パターン: AIが「『未払費用』の残高が、一度も減少することなく右肩上がりに増え続けています」と指摘。
- 調査: 総勘定元帳を確認すると、毎月、費用計上(借方:費用/貸方:未払費用)はされているのに、翌月初の反対仕訳(洗い替え)が全く行われていないことが判明。
- 結論: 洗い替え忘れにより、費用と負債が二重で計上され続けていました。
ケーススタディ2:消えた請求書(重要な取引の入力漏れ)
- 異常パターン: AIが「新規プロジェクトのために『仕入高』は前期比30%増えているのに、『買掛金』の残高は横ばいです。動きが一致しません」と分析。
- 調査: 「請求書の入力漏れでは?」という仮説を立て、購買部門から主要な発注書リストをもらい、買掛金元帳と突合。
- 結論: やはり、新規プロジェクトに関する主要サプライヤーからの請求書が経理に届いておらず、入力が漏れていました。費用と負債が過少計上されている危険な状態でした。
ケーススタディ3:うっかり二重計上された経費
- 異常パターン: AIが「今月だけ『修繕費』が突出して高いです」と警告。
- 調査: 修繕費の元帳を深掘りし、取引先と金額で並べ替えてみると、「XYZメンテナンス社」へ同額の支払いが2回行われているのを発見。
- 結論: 同じ請求書を誤って2回処理していました。コスト増に直結する、これも典型的なエラーです。
ケーススタディ4:誤って費用処理された資産
- 異常パターン: 再びAIが「『修繕費』が異常に高いです」と指摘。
- 調査: 元帳の詳細を見ると、「本社オフィス改装工事」という摘要で多額の支払いが。これは資産の価値を高める「資本的支出」であり、一括で費用処理するのは適切ではないと気づく。
- 結論: 本来は固定資産として計上すべき支出を、誤って修繕費として費用処理していました。これにより、当期の利益が不当に低く計算されていました。
まとめ:AIを「もう一人の専門家」にして、自信と安心を手に入れよう
いかがでしたか? 生成AIを使えば、これまであなたの貴重な時間を奪っていた増減分析が、瞬時に、しかも高い精度で完了します。
今回ご紹介したプロンプトは、あくまで一例です。ぜひ、あなたの会社の勘定科目に合わせてカスタマイズし、試してみてください。
また生成AIに任せっきりでもいけません。必ずあなたの目で確認し、ファクトチェックを行なってください。しかし、生成AIを活用することで、原因追及の時間が非常に短縮されていることに気が付きます。
生成AIをよきパートナーとして活用しましょう!
コメント